今日も寿はバスケ部の練習後、うちにくる。
お母さんがヨガに出かけて、そのまま妹の塾の迎えに行って、さらに晩ご飯まで食べて帰ってくる木曜日。お父さんは単身赴任。つまり夕方から夜11時近くまで家には私だけ。

いつの間にか家族公認になって、お母さんは「三井くんがいてくれたら、防犯になって安心だわ〜」とかのんきに喜んでいた。
でも、親不在の彼女の家に来て、健全な高校生男子のすることといえば


「あっ、ひさ、しっ」
「くっ・・・・・・イく・・・っ」


本当に防犯になっているのか若干疑問だが、まぁそういうことになる。
それはそれで、私だって寿のことが好きだから問題はない。
だけど、最近・・・


「・・・はー・・・あ、ポカリ飲みきっちまったんだった。、水もらうな」
「え?あ、うん・・・」




パタン




まだ息も整わない私をちらりとも見ず、カバンの中を探った後、飲み物がなかったらしい寿はさっさと下着とズボンをはいて部屋を出ていった。
閉まったドアをぽかんと見つめ、じわじわと現実と涙が押し寄せてきて、あわてて体を起こした。



信じられない。
今の私の格好、学校から帰ってきてブレザーとパンツ脱いだだけなんですけど。
つまりシャツもスカートも靴下も着たまま。なんなら気持ちばかり緩められただけのリボンも首元に引っかかってる。
最近は、いつもこんな感じで、ただの性欲解消のための行為なんじゃないかと不安になる。別に私じゃなくてもいいんじゃ?


「マジでヤりに来てるだけじゃん・・・」






「・・・というのが、先週の話なんだよねー」
「なんで、それ俺に話すんスか」
「たまたまここに居たし、下ネタもいけそうだったから」


たまには部活見に来いよ、なんて寿に言われて、スカートも脱がされずエッチしたあの木曜日から1週間。私は体育館でバスケ部を横目に水戸くんに愚痴っていた。


「そりゃあマンネリになるのもわかるけど、パンツだけ脱がして即挿入、とかほんとひどくない?」
「さすがに三井さんガッつきすぎスかねぇ」
「エッチしたらマンガだけ読んで帰る時もあるんだよ?そういうサービス付きの漫喫か、みたいな」
「はは、それは酷いかも」
「エッチさえできればそれでいいんだよね、きっと」
「それはどうですかね」


優しい顔で聞いてくれる水戸くんについつい何でも話してしまうし、話しながら思い出して悲しくなってくる。
鼻をすん、と鳴らしてふと隣を見ると、あれ、なんか、水戸くん距離近づいた?


「俺なら、もっと優しくしますよ?」
「え?」
さん、一回俺としてみません?」


人ひとり分くらいは空けて隣に並んで話していたはずの水戸くんが、いつの間にか肩が触れ合うほど近くにいて、頬に手が伸びて来た・・・・と思ったら


バシィッ!!!!


私たち目掛けて、ものすごい勢いでバスケットボールが飛んできて、水戸くんがそれを私の方に伸ばしていた手で弾いた。


「三井サン」


ボールが飛んできた方向を見ると、鬼の形相をした寿が立っていた。
なんでそんなに怒ってんの?怒りたいのはこっちじゃない?


「・・・わりぃ、手が滑った」
「はぁ?寿、危な!気をつけてよ!!」
「あぁ!?」


ブチギレている寿とは対照的に、水戸くんは肩を震わせて笑っている。


「水戸、お前に何しようとしたんだよ」
「なんもしてねぇっすよ」
「そうそう、水戸くんは私の愚痴を聞いてくれてただけだよ」
「愚痴だぁ?」


なんのだよ、と言いたげな寿に私は言葉を詰まらせる。
こんなにバスケ部のみんなが聞いてる前では言えない。さすがに恥ずかしい。


「とにかく、もう少しで練習終わるから、はそこから動くんじゃねぇぞ」
「はーい」
「水戸はさっさと帰れ」
「ははっ、そろそろバイトなんで言われなくても」


まだおかしそうな顔をして、水戸くんはカバンを手に取った。
そして、私の方を振り向いてこっそり耳打ち。


「あの三井サンが体目当てってことはないと思いますよ」


さっきのは冗談なんで、と手をひらひら振って帰っていく。
相変わらず飄々とした後輩くんだ。


しばらくして、着替え終わった寿が現れた。
まだちょっと不貞腐れたような顔をしている。怒っているらしい。


「何怒ってんの?」
「なんかミョーな雰囲気だったぞ、お前ら」
「そんなことないって」
「水戸に何を愚痴ってたんだよ。どうせ俺のことだろ?」
「え」


俺のことって思うならそんなストレートに聞いてこないで欲しいんだけど・・・


「・・・なに、思い当たることでもあるの?」
「・・・・・・いや、まぁ」


気まずそうに寿が目を背ける。


「え、なに、わかってるなら、なんであんな風にすんの!?」
「あんな風?」
「寿は何しにウチに来てるわけ?」
「え、何って・・・・・あー・・・わりぃ」


うなだれながら、寿がカバンをゴソゴソと漁り出した。
え、なに。


「だから、これ。本当悪かったな」


目の前に差し出されたのはコンビニの袋。
は?


「この間行った時、腹減っててお前のプリン食べちまったから・・・」


は?プリン?


「あれ?って名前書いてあったから、お前のだと思って・・・」


・・・・そういえば、お風呂出たら食べようと思ってたけど、寿のエッチがあんまりだったからショックですっかり忘れていた。
ていうか、え、プリン?寿が気にしてたことって、プリンなの?


「・・・・もういい」
「え?」
「もういい、プリンなんて、何個でもあげる」


袋を受け取ろうとしない私に、寿が困った顔をする。
だけど、あんな酷い抱き方をされた後で、こっそりプリンまで食べられていて、私は心底悲しくなってしまった。
しかも、私が何か不満に思っていることには気づいたくせに、その内容がプリンて。ほんとに私のこと好きで大事に思ってるのかわからない。


「もう家に来ないで。それが嫌ならもう別れる!!」


寿の顔も見ずに、頭に浮かんだ言葉を感情的にそのまま投げつけて、私は走り出していた。










毎週木曜日