「えー!?深津さんて彼女いるんすか!?」
「驚きすぎだピョン」

いやだって驚くでしょ!?あの深津さんに彼女!?バスケのセンスとスキル、キャプテンとしての信頼はあるけど、ピョンとかベシとか言ってんのに!?顔はまぁ…確かに俺ほどではないけど整ってるか。いやでも、そもそもどこにそんな時間があるって言うんだ。俺だってたまにお菓子とかくれる女の子はいて、可愛いと思うこともあるけど、学校行って練習してたらもうあとは寮帰って飯食って風呂入って寝るだけ。女の子に気持ちを割いてる余裕がない。

「いつデートとかしてるんスか?」
「してる暇なんてあるわけないピョン」

は!?どういうことすか。彼女さんかわいそうすぎるでしょ。

「たまに昼休みに飯食うピョン」
「同じ学校!?」

他校の女子を好きになるほど暇じゃないピョン、とカバンに荷物をしまいながら深津さんがつぶやく。まじか、彼女さんのこと、ほんとにちゃんと好きなんだな。

「練習見にきたことあります?俺見たことあります?」と尋ねれば、ものすごく嫌そうに眉根を寄せた冷たい目が返ってくる。そんな顔しないでくださいよ…。
「いたとしてもお前には教えないピョン」
「なんでっすか!!」
「色々うるさそうだピョン」

でも同じ学校なら、部活が始まるまでの時間は顔も見れるし喋れるし、いいのかもしれない。

「もしかして彼女さんて同じクラスですか!?明日行きます!」
「明日は一日実習だピョン」
「そんなぁ!」

監督に呼ばれてるから先行くピョン、と言い残して部室をあとにした深津さんのカバンには、言われてみればペアものっぽいキーホルダーがさりげなく付いていて、そんなの付けなさそうな深津さんなのに、彼女さんに頼まれて付けたんだろうなぁ、彼女さんのこと大事にしてるんだなぁってことがわかる。

「今さら気づいたんか、沢北」
「結構前からつけてるぞ、あのキーホルダー」
「まぁさりげなく見えづらいようにはしてたけどな」
「まじすか!?」

なんか俺、周りのこととか見えてなさすぎなのか?
「沢北はそれが沢北らしいからいいと思うよ」ってイチノ先輩がフォローしてくれたけど(フォローなのかな)もう少し色々気づこうと思った。

そして次の日、遠回りして深津さんたちのクラスが使う階段を使ってみたら、作業着姿の深津さんと女子生徒が一緒にいるのを見てしまって、俺は思わず柱に隠れた。ちょ!深津さんてあんな優しい目すんのかよ!!笑ってるわけじゃないけど、明らかに表情が違う。狭い階段の踊り場で男子生徒の集団とすれ違う時はさりげなく彼女さんをかばっている。紳士か!!自分に彼女がいたら、その分バスケに集中できないんじゃないかと思うけど、たぶん今の深津さんには彼女さんの存在も必要不可欠なんだろうな。彼女がいるから集中できないんじゃなくて、あの彼女さんがいてこその深津さんの強さなんだろうな。……ていうか彼女さんめっちゃかわいい!!!なんなんだまじで!!普通にうらやましい!!!…あ、ヤベ、見つかった…てか顔!さっきまでの優しい顔から180度変わりすぎっスから!!

「…沢北、今日は特別メニュー組んでやるピョン」
「さーせんっしたぁああ!!!」