「ただいま」


帰宅してドアを開け、いつもの言葉がつい口をつく。
真っ暗なキッチンからは、冷蔵庫のブーンという音が返ってくるだけだった。


(今日は飲み会だったな。)


勢いで始まった同棲生活は、社会人と学生の生活リズムの微妙なズレが功を奏し、意外にも洋平にとってはほとんどストレスなく2年が過ぎようとしていた。
果たしても同じようにストレスフリーなのか。はっきり聞いたわけでは無かったが、ことさらに不機嫌になることがあるわけでもないし、基本的には話し合いというスタンスがしっかりしているのであまり気にしていなかった。


「にしても、今日は遅いな・・・」


時計を見れば、そろそろ日付も越えようという時間。
比較的落ち着いたサークルの飲み会で午前様になるのは珍しい。


ガチャ

「お」

鍵があき、ドアの閉まる音。
ごそごそという音のあと、居室のドアがあく。


「・・・」
「おかえり、どした?」


ただいまも無く、が浮かない顔で立ちつくす。
飲んでも顔色が変わらないは、むしろ青白いように見える。それでも赤っぽく潤んだ瞳によって、いつもよりアルコールを多く飲んだらしいことがうかがえる。


「・・・洋平はさ・・・」
「ん?」


2人がけの小さなローソファに座る洋平の首に、が立膝で抱きつく。


「・・・・・・・・・私とのエッチ、満足してる?」
「はっ?」


想定もしていなかった単語がの口から飛び出してきて、洋平は言葉を失う。しかも、普段のは恥ずかしがってその手の話題を避ける傾向にある。


「今日サークルの女子会で」
「付き合いも長いし、マンネリなんじゃないかって」
「みんな、すごいの。一回のエッチで何回も体位変えたりとか、口でしてそのまま顔に出される、とか、あと、車の中でエッチする、とか。」


いつものからは想像もできない露骨で具体的なセリフに洋平は呆然とする。


(いや、女子大生の飲み会ってスゲーのな。)


「なんか、私、いっつも同じ体位がいいってなってたし、その、口とかも、ちゃんとしたことなかったし、付き合い長いのにそれって淡白すぎるとか、飽きられてないか、とか」
「みんなに色々言われて不安になった?」


泣きそうな顔のの頭を撫でながら、洋平は優しい微笑みをに向ける。


「んなの、めちゃくちゃ満足してるに決まってんだろ? 俺に抱かれてるが、どんだけ可愛いかそいつら知らねーからンなこと言えんだよ。」
「でも、でも、口でして欲しいとか、したい体位とかあるんじゃないの?前に言ってたもん。」


未だ半泣きのまま、が洋平に向かって体重をかける。胸のあたりを押され、洋平は耐えきれずに後ろに倒れそうになる。


「え、おい、」
「嫌っていうかね、恥ずかしかったの・・・」


が、洋平のスウェットに手をかける。


「でも、気持ちよくなってほしいし、したくないわけじゃないんだよ」


下着ごと下に引きずりおろされ、が洋平自身をぱっくりと口の中に含んだ。


「ちょ、!」


いつもより体温の高いの口の中は、長年付き合ってきてもほとんど経験が無く、洋平は一瞬で体内の血液が昂るのを感じた。


「あ、すごぉい」
「ちょ、やめ、」


ムクムク、という言葉がぴったりなほど、洋平のそれが硬くそそりたってゆく。
うっとりとした目で見つめ、艶っぽい唇をあてがうはひどく扇情的で、初めて見るの姿に洋平は吹き飛びそうな理性を必死につなぎとめる。


「もう、いいから・・・っ」
「なんで?よくない?」
「・・・っ」


よすぎるから、とはプライドが邪魔をして言えない。
しかし、ここでの立ち回りを間違えると、は二度とこの手の行為を受け入れてくれなくなるかもしれない。今までの行為に不満があるわけでは決してないが、してくれるのはやはり嬉しい。


「いいでしょ・・・・・・?」
「っあ・・・っ」


洋平の葛藤をよそに、はさらに深くくわえこんだ。
その表情からすべてを察しているらしい。


(くっそ・・・この酔っぱらい・・・!)


「・・・っ・・・」
「ん?」
「・・・手も、つかえる、か?」
「ん、」


の唾液でコーティングされた洋平自身を、はためらいもなく優しく握る。


「おしえて?」
「・・・そのまま、ゆっくり、上下に・・・」
「こう?」


実は、口よりも手の刺激の方が強い。弱い力ではあるがの手によってしごかれ、洋平はさらに強い快感が体を駆け巡るのを感じた。


「うっ・・・」


洋平の反応に気を良くしたらしいは、手の動きはそのままに、洋平の先端に軽く吸い付いた。


「うぁ・・・っ」


控えめだが、いつもの洋平からは聞くことができない息遣いに、も知らず知らずのうちに興奮していく。


「っ・・・・・・」
「あ、」


が口を放したタイミングを見計らって、洋平が腰をひいた。一瞬糸を引く口元がどこまでもいやらしい。


「交代だ」
「え?」


を近くのベッドに寝かせ、上から覆いかぶさってキスをする。アルコールの匂いがほのかに残る吐息。の体の力が抜けるように、角度を変えて何度も深く口付ける。


「んっ・・・はっ・・・よう、へい・・・」
「俺だけじゃ悪いだろ」
「やぁっ」


もっと丁寧にしなければと思うのだが、洋平にも余裕がない。下着の隙間からの中に指を這わせる。
今日初めて触るはずのそこは、完全に受け入れ態勢が整っている。


「すげーよ、のここ」
「やぁっ、いわないで・・・っ」
「俺のくわえて興奮した?」
「しらなっ、あぁんっ」


軽く慣らし、ゆっくりと指を引き抜く。


「もう、いいな?」
「あっ、なんで、」
「我慢できねぇ」


の中、いれたくてたまんねぇ」
「んっ、あぁっ」


腰をすすめると、いとも簡単には洋平を受け入れた。
心なしか、いつもより熱くねっとりと絡みついてくる。


「・・はっ・・・・・・すげー、いいよ・・・」
「んっ、やぁ、あぁんっ」


洋平が、いつもより性急に、かつ激しく腰を打ち付ける。


「あっ、んあっ、つよっ・・・あっ」
「わり・・・・・・限界・・・っ」
「んっ、はぁ、ようへ・・・ちゅー・・・して・・・っ」
「ん、」


右手での髪をなでながら、深く口付ける。
の喘ぎ声も、吐息も、全部飲み込んで、洋平の息遣いを飲み込ませる。


「はっ、あ、もっ、だ・・・めぇ・・・やっ、あっ、ん、ぁああっ!!」
「っ・・・!っ・・・!」


強く抱きあい、そのままベッドに2人の体が沈んだ。


「は、、大丈夫か?」
「・・・ん、」

「ほら、水」
「・・・ん」


返事はしながらも、は枕にうずめた顔をあげない。


「どうした?」
「・・・・・・」


ベッドに腰かけた洋平とは反対の方へ顔を向ける


「恥ずかしい?」
「・・・!!!」


声にならない声を発しながら、枕に顔を押し付ける
かわいそうなことには、記憶を無くさない酔い方をするタイプである。家に帰ってきてから、洋平にしたことをすべて覚えていて、居た堪れなくなっているらしい。


「嬉しかったし、気持ちよかったよ」


の頭を撫でてやりながら、洋平が優しく話しかける。


も気持ちよかったろ?」
「・・・」
「よくなかった?」
「・・・」


否定しないということは、肯定なのだろう。
都合よく解釈して、洋平は頭を撫で続ける。


「・・・きてた?」
「え?」
「・・・やっぱり、飽きてた?」


帰ってきた時の泣きそうな顔のまま、が聞く。
顔にはだいぶ赤みが戻ってきて、相変わらず目は潤んでいる。


「全然。」
「ほんとに?」
「ほんとに。は飽きてたのか?」
「・・・ううん」
「な?俺だって同じだよ」
「・・・」
「今日のが気持ちよくて嬉しかったのもほんと。でもそれは、飽きてるとか不満があるのとイコールじゃねーから」
「・・・ん」
「・・・ただ・・・」
「?」
「・・・たまに口でしてくれたら・・・すげー嬉しい」
「・・・!」
「・・・正直、すげー興奮した」


うっすら耳まで赤くして、片手で口を隠す洋平は心底はずかしそうで。
滅多に見ることのできない洋平の姿に、は驚きを隠せず呆けてしまう。


「・・・・・・たまに、なら・・・」
「・・・ん、サンキュ」


2人は顔を見合わせ、くすぐったそうに笑いあい、そして顔を寄せ合った。



「体位はまた、追々な。」
「へ!?」









マンネリ打破