ー!」


ベッドの上で深津の首に抱きついていたら、階下からお母さんの声がする。


「! は、はーい!」


あわてて返事をし、ベッドから降りてドアを開けて顔だけ出す。


「ちょっとおばあちゃんから電話かかってきたから行ってくるわね、ついでに買い物もしてくるから〜」
「う、うん、わかった、気をつけてね」
「はいはい、深津くんごゆっくりね」


いつの間にか私の頭上から顔を出していた深津が、微笑んで頭を下げる。選ばれし大人が向けられる深津の微笑み、まさかうちのお母さんが見る日が来るなんてなぁ。深津が家に来た初日、私はぽかんとして深津をたっぷり5秒は見つめたと思う。


2人で部屋のドアを閉め、荷造りはこれでいいかと深津の方を向いた瞬間、突然体が浮いた。


「え!?」

ドアから数歩のベッドに体がふわりと着地する。
さっきまでの微笑みはどこへやら、いつもの真顔で深津が馬乗りになって私を見下ろしている。


「え、ちょ、あの、深津さん…?」
「さっきの続き、していいかピョン」
「つ、続き?」


展開についていけなくてぽかんとしていると、開いた口ごと深津に食べられる。


「〜〜っ!?」
「…


口腔内を舌で一周して、深津の唇が離れる。と言っても、お互いの吐息が触れる近距離だ。


「ちゃんと鼻で息しろピョン」
「そんっ…んっ…!」


いつの間にか繋がれた手は顔の横でベッドに押さえつけられていて、私は必死に指を絡める。
深津の舌が気持ちよくて、私もいつの間にか優しく口腔内を侵す深津の舌を追いかけていた。


「んっ…ぁっ、はぁっ…」
「…舌の動き、なかなかうまいピョン」


軽くリップ音をたててキスが終わり、深津が私の首筋に顔を埋める。キスされたり、なめられたり、首から鎖骨にかけて深津の舌や唇に触れられるたびにピクピクと体がはねてしまう。


「かわいいピョン」
「ふか…つ…っ」


今から深津が何をしようとしているのか、わからないほど知識がないわけではない。でも、まったく経験がない私は、未知の行為に対しての恐怖心に体がこわばる。



「っ!」
「怖がらなくても大丈夫だピョン」


いつの間にか深津の手が服の裾から脇腹を撫でている。


「嫌ならやめるピョン」
「…っ!」


そんな目で見るなんて、ずるい。
お母さんはおばあちゃんの家に行くって言っていたから往復2時間くらいかかるし、買い物も行くって言っていたからたっぷり3時間以上は時間がある。


「や、優しく…して…ください…」
「当たり前だピョン」


答えるや否や、あっという間にトップスもキャミソールも脱がされ、下着だけにされてしまう。


「さむっ…」
「すぐ暑くなるピョン」


慣れた手つきでブラのホックを外され、びっくりして深津の顔をまじまじと見つめてしまった。
視線に気づいた深津が触れるだけのキスをする。


「どうしたピョン」
「い、いや、やたら慣れてるね…」
「そんなことないピョン」
「っ!?」


ブラをたくし上げられて、肩紐が両腕から抜かれる。
ふわりと乳房を包まれて、思わず息を呑む。
すべてが包み込まれる、初めての感覚。
ふにふにと感触を楽しむように触りながら、深津がもう片方にも優しく口付ける。


「…あっ、…ひぁっ…」
「柔らかいピョン」
「〜〜〜!!」


つつ…っと唇を滑らせて、胸の頂を深津が口に含む。
舌でつつかれたり、転がされているのがわかる。


「んぁっ、やぁっ」
「…こっちは硬くなってるピョン」
「なっ…いわな、ぁっ、あぁ!」


含んでいない方は指でつままれて、今までに感じたことのない感覚が全身を駆け巡る。
胸だけで、こんなになっちゃうなんて、この先に進んだらどうなっちゃうんだろう?
そう思った瞬間、下肢の間がきゅん、と疼いた。


「そろそろこっちも触るピョン」


断定口調ながら、目線は私からの許可を待っている。
私は枕で顔を半分隠しながら、小さく頷く。
恥ずかしいけど、めちゃくちゃ恥ずかしいけど、深津だから…


スカートごと下着を脱がされ、いよいよ私は抱きしめた枕で顔と胸元を隠しているだけの姿になってしまった。
深津もいつの間にか上裸になっている。


「痛くて我慢できなかったらすぐ言うピョン」
「う、うん…」
「…トロトロピョン」
「…ば、ばかっ、ぁっ、やぁ、んっ…!」

ゆっくりと深津の指が秘部に添えられる。
入口付近を優しく撫で、秘芯に軽く触れる。
決して強く触られたわけではないのに、敏感になっているそこには刺激が強くて、私の体がビクンとはねる。


「…ほんとにココ、敏感なんだピョン」
「〜〜〜っ!!」


気持ちいいところを深津の指が触るたび、声にならない声をあげ体を震わせる私をしばらく見つめ、深津が指を抜く。


、すごいピョン」
「やっ、そういうの、言わないでぇ…!」
「悪いピョン」


次、指入れるピョン。といつもと同じ表情で深津が言う。トロトロだったところを触られていた感覚から、柔らかいところに細くて硬いものが入ってくる感覚に変わり、瞬時に体が強張る。


「っ…!!」
、力抜くピョン」
「んっ…」


頭を撫でられ、思わず噛み締めた唇に柔らかい唇が降りてくる。


「んっ…ふぁ…っ、ぁっ、…んぁ…、」
「ん、そうピョン」


キスされながら指が抜かれて、そのまま外側の敏感なところを撫でられる。
くちゅくちゅとさっきまではきこえていなかったはずの水音に、かぁっと顔が熱くなる。
再び、深津の指が中に入れられる感覚がする。


「さっきよりはキツくなさそうピョン」
「あっ…」


くっと指が曲げられ、ゆっくりと動く。
不意に、ある一点をかすめたとき、ピクリと腰がはねた。


「ひぃ…っ…!」
「…よかったピョン?」


"その場所"を探そうと深津が同じような動きを繰り返す。


「…あっ、…やぁっ、…な、にっ!」
「…ここか」


とんとん、とそこを優しく押されると、ピクピクとスイッチを入れられたかのように体が反応してしまう。深津がゆっくりと、しかし執拗にその部分を攻めたてる。
口からは自分のものでは無いような声がひっきりなしに漏れて、おかしくなりそうになる。
やだ、きもちいい、よすぎて、こわい、


「やっ…ふか、つ…っ」
「どうしたピョン」
「なん、か、こわ、い…!」
「…!」


乱暴にならないように、しかし素早く指が出ていく。少しだけ目を見開いて、焦ったような深津が私の頭をなでた。
生理的な反応で涙がにじむ目元にキスをされる。


「…悪い。夢中になったピョン」
「…っううん」


いつも冷静な深津が「夢中になった」なんて、なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう。そのまま首に抱きつくと、深津も抱きしめ返してくれる。


「…今日はここで終わりにするピョン」
「え…」


触れるだけのキスをして、深津が離れようとする。


「や、やだ…っ」
?」


思わず、力いっぱいに抱きつく。足を動かすと、ふとももに、熱いものがあたった。


「…ッ!!」
「あ、ごめ!!…でもほら、深津も、そんななのに」
「俺のことはいいピョン」
「で、でも…」
「怖がらなくていい、なんて言っておいて怖がらせてしまったピョン」


ちがう、こわいのは、それは、


「……って」
「え?」
「……よくって」
「よくって?」
「………き、きもちよくって」
「!」


初めてするのにこんなことを言うなんて、とんだインラン女だと引かれてしまうんじゃないか。恥ずかしすぎていつのまにか横に退けられていた枕で顔を覆う。





枕が上にずらされる。


「もう一回言えピョン」
「むっ……むり……っ」
「ちゃんと気持ちいいピョン?」
「…っ…!」


涙目でこくりと頷くと、深津はごくりと喉を鳴らした。


「…本当に大丈夫かピョン?」
「…ん」
「…もう挿れてもいいピョン?」
「……それは…わかんない…けど」
「じゃぁもう少し触るピョン」


また深津の指が、足の間の湿った部分に這わされる。くちゅりと難なく指一本を受け入れ、深津の動きにひくひくと自分の中がうごめくのがわかる。


「…そろそろしてみるピョン」
「…ん」


いつの間に準備していたのか、ベッドの脇のカバンから箱を取り出し、深津が避妊具を装着している。
…やっぱり、随分手慣れている。


「…深津は、初めてじゃなかったんだね」
「どうしてそう思うピョン」
「やっぱ慣れてる」
「だからそんなことないピョン」


ゴムの装着なんて、誰でもできるピョンと呟き、深津が私の足を開く。
入り口にあてがわれると、指とは比べ物にならない圧迫感に、ひゅっと息がつまる。


、息止めるなピョン」
「…っ」


先端がぐっと押し込められる。痛い。あんなに恥ずかしくぐちゅぐちゅと音を鳴らしていたのだから、十分濡れていたはずなのに。指のときは全然痛くなかったのに。


「ふか…つ……の、おっきぃ…っ」
「っ…!あんまり煽るな、ッ…!」


だいたい、まだほとんど入ってないピョン…と伏目がちにした深津が大きく息を吐く。
その表情が見たことないほど色っぽくて、体の中心で何かがどくん、と音をたてる。


「っ…!」
「…いま一瞬、力が抜けたピョン」


また少し深津が進んだのだろう。痛みが大きくなり、また体がこわばる。
深津が私の腰を片手で抱え上げ、もう片方の手で耳をさわる。お腹と胸が密着するような姿勢だ。


、俺にしっかりしがみついて、遠慮なく背中に爪たてろピョン」
「ふぇ?」
「一気にいく方が、痛くないらしいピョン」
「え、〜〜〜!?」


深津の唇が、私の口をふさぐようにおおいかぶさり、舌を吸われる。
と同時に、深津の腰が深くすすめられ、ずちゅん、と効果音でもつきそうなほどの衝撃が体に走る。思わず、深津の背中にまわした手に力が入る。


「〜〜〜〜〜!!」
…」


じんじんと鈍くて重い痛みが下半身に広がる。でも、内股に今まで触れなかった深津の腰があって、すべて入ったのだと察する。
ぎゅっと目をつぶってなんとか痛みをやり過ごそうとするが、深津の腰が今にも動き出したそうにうずうずしている。


「…大丈夫か、ピョン…?」
「も、もう少し…まって…」


やわやわと深津が胸を触る。耳や、頬や、首筋にも唇が落とされ、少しずつ痛みがまぎれるような、気がする。


「ふか…つ…」
「どう、したピョン」
「きもちいい?」
「…っ…」


一瞬眉間に皺を寄せ、私の胸元に顔をうずめていた深津が上目遣いでこちらを見上げる。


「…めちゃくちゃ、いいピョン」
「…よかった…」
「…ゆっくり動く、ピョン」
「うん…いいよ…」


言葉通り、ゆっくりと、ゆっくりと深津が腰を動かす。正直動くたびにじんじんとするけれど、我慢できないほどではない。動きに合わせて息を吐くしかできなかった私も、少しずつ声が漏れる。そのたびに、深津がピクリと反応し、腰の動きのスピードが少しずつ上がっていく。
いつのまにかまた強く抱きしめられていて、私も深津の背中に無我夢中でしがみつく。


「…っ…、……もう…っ」
「う、うん、…いい、よ…っ!」


初めて聞く、切羽詰まった深津の声。全然取り繕われていないその声色に、自分との行為が深津をそうさせているんだとたまらなく興奮する。
どんどんとスピードが速くなり、深津の腰骨が内股にこすれる。


「あっ…、ふか、つ…っ…あっ、んっ…!!」
「〜〜〜〜っ…!!」


腰を強く打ち付けるのを必死に我慢したらしい動きをして、深津が私をひときわ強く掻き抱く。切羽詰まっていたのに、ちゃんと理性が働いているのが深津らしい。


「……ちゃんとイケた?」
「…めちゃくちゃ出たピョン」


深津が体を起こし、慎重に私の中から自身を抜き取る。まだ圧迫感があるけれど、確かに入ってきた時よりは硬くない気もする。ティッシュを何枚か出し、私のも含めて後処理をしてくれる。


「痛いピョン?」
「んー、まぁ、少しね」


じんじんとした違和感は消えないが、動けないほどではない。
深津の強靭な精神力のおかげだろう。無理に深い挿入がされなかったことくらい、初めてでもわかる。


「深津は、ほんとに気持ちよかった?」
「何回聞くピョン。出したの見るかピョン?」
「なっ!み、見ないよ!!」
「…これ、持って帰った方がいいピョン?」
「……い、いや、それはさすがに申し訳ないよ」


ティッシュにくるんだゴムを、食べたお菓子の袋の中に強引に押し込む。
さらに小さいセロテープでとめて、ゴミ箱に捨てる。


「…しちゃった、ね」
「…したくなかったのかピョン」
「そんなわけないじゃん」


深津の手をとり、握りしめる。この人と、一つになれたのだ。
大好きな、この深津一成と。


「…ありがとう」
「こっちのセリフだピョン」
「なんか、幸せ」
「…次は怖がらせないようにするピョン」
「つ、次?」
「4月からがこれっぽっちも不安にならないように、3月中に刻みつけてやるピョン」


もう、そんなの、とっくに。
言葉を紡ごうとした唇は、深津に優しくふさがれていた。










目眩の余韻