「なぁ、別れたってほんとか?」
「・・・なんだよそれ」
「風のうわさで」
「うわさ早すぎだろ。別れたの昨日だぞ」
「ほんとなんだ」
「あ」
「どうせお前が振ったんだろ。まだ1ヶ月も経ってないのにかわいそうに」
「それも風のうわさ?」
「いや、これは俺の勘」
「・・・」
「当たりだな」
「なんでそんなんわかるんだよ」
「そんなん藤真見てりゃわかるよ」
「はぁ?」
「お前のこと好きじゃん」
「はぁああ!?」
「え、自分で気づいてない系?ないわー」
「なんで俺が!」
「いやお前が付き合ってうまくいくのしかないと思うぞ」
「なんで俺があんな失礼なやつと!!」
「それがいいんだろ」
「はぁあ!?」
「じゃあ昨日別れた彼女、何が嫌だったんだよ」
「・・・」
「それもわかってないのか?」
「・・・そんなことは、ない」
「それがわかってるなら、のこと好きな理由もわかるんだろ」
「・・・・」
「夏だけじゃなくて、高校生活も終わるぞ」
「・・・・」



なんなんだよ花形は!!突然朝練後の部室であんなことを!!
俺がを好きとか!!!
俺が最近やっと気づいたことを、前々から知ってましたよみたいな顔しやがって!
これだから勉強のできるやつは嫌いなんだよ!!


「藤真ー!今日も顔だけはかっこいいね!」
「ウルセェ!」


で、毎度毎度俺に対して遠慮も何もないこと言ってきやがって!
なんなんだよ顔だけはって!他にも色々あるだろ!!
3年間も同じクラスで、多分学校で1番俺と喋ってる女子だけど、1度も試合は見にこないまま夏は終わっちまったし!

苛立ちをあらわにしてを睨みつけると、普段と違う俺の様子に気付いたのか、が意外そうな顔をして俺の前の席に座る。


「どうしたの?彼女に振られて傷ついてるの?」
「振られてねぇし」
「じゃぁ花形に振られて傷ついてるの?」
「振られねぇし」
「じゃぁ高野に振られて」
「いやだからなんで振られる前提」


はっきり花形に言われてしまったことで、いやでもを意識してしまう。
いや、本当のことを言えば、花形に言われるまでもなくが好きだって思ったから、告白されてうっかり付き合ってしまった他校の女子と別れるしかないなと思ったわけなんだけど。


「振ったのは、俺だよ」
「え、藤真が藤真に振られたの?」
「昨日、彼女と別れた」
「え」


ふざけていたの表情が、カチリと音がしそうなくらいピタッと固まる。


「俺から振った」
「なんで!?」
「・・・他に好きなやついるって気付いたから」
「・・・・」


の顔にさらに驚きの色が追加される。
えーと、これはどういう流れなんだ?


「えっと、じゃぁ、その人と付き合うの?」
「いや、そりゃ、そうなったらいいけど・・・」
「ふ、ふーん、そっか・・・・」


の目が、あちこちに泳ぐ。
なんか変な流れになってしまったことに俺はいまさら焦り出す。なんか教室暑くね?


「・・・じゃぁ、なんか、藤真に話しかけづらくなるね」
「は!?なんで」
「え、だって・・・藤真ってあんまり女の子と仲良くしてる感じなくて、でも私はクラスが3年間一緒だったからなんか気安い感じになってたけど、藤真が本当に好きな人と付き合いたいんだったら、こんな馴れ馴れしい女友達いるのとか、その人にも勘違いされそうだし。」
「そ、それは・・・」


の言葉に、なんと言い返していいかわからず言い淀む。
確かに、それは、じゃない女子を好きだったとしたら、一理あるのかもしれない。
でも、それは、じゃない女子だったら、の場合だろ。
俺が好きなのはなんだから、と話せなくなるとか、全然意味不明だろ。


「いや、は、別に、これまでと一緒で、いい」
「え?でも・・・あ、翔陽の人じゃない、とか・・・?それならいいってわけではないけど、まぁ・・・」
「・・・いや、翔陽の、子だけど」
「じゃぁ・・・」
「・・・・」


違う、違うんだ
ていうか、お前は俺と話せなくなって平気なのかよ。


「いや、、えーと、だから、俺が、付き合いたいのって、」


くっそ、言うしかねぇ!!


、だから」


ちょっと声が小さくなったけど、言ってしまった。
聞こえてないわけではない、はず。
の顔を直視できないくらい恥ずかしい。が、それで顔を背けたら負けな気がして、なんとかこらえての半開きの口元を見つめる。



「・・・なんか、言えって」
「え、あの、え、ごめん」
「え!?」


あ、俺振られた?
いや確かにそうだよな、振られない保証はどこにもないよな。
なんか勝手に告ったら付き合えるみたいな気分になってたけどそりゃそうだよな。


「あ、いや違う!!付き合えないとかじゃなくて!」
「え?」
「・・・・・・私で、いいの?」
「・・・・が、いいんだ」


が、泣きそうな顔をして両手で頬を包んだ。潤んだ瞳で見つめられて、忘れかけていた心臓の鼓動がまた激しくなる。


「・・・なぁ、付き合ってくれんの?」


頬を包んでいるの右手に、そっと俺の左手を添える。
めちゃくちゃ小さくてかわいい。
なぁ、俺いますげードキドキしてるよ、早く返事くれよ頼むよ。


「・・・う、うん」



ぃよっしゃぁあ!!!とガッツポーズでも決めたいくらいだったけど、ギリギリのところで堪える。ニヤニヤしそうになる口元を必死で引き締めるけど、多分引き締めきれていない。
も、今まで見たことないくらい顔を赤くして、モジモジしている。参ったよなぁ、こいつこんな可愛かったっけなぁ。



「・・・んじゃ、よろしくってことで」
「う、うん。よろしくお願いします」






「藤真と、朝のショートタイム始めていいか?」



完全に2人の世界に入っていた俺たちは、担任の声で我に帰った。
うっわやべぇ、ここ朝の教室じゃん。
周りを見渡すと、ニヤニヤしている男連中と、涙目になっている女子が何人かいた。
まぁでも色々隠す必要もなくて、むしろ面倒もないかもしれない。


慌てて自分の席に戻るの背中を見つめていたら、さっとがこっちを振り向いて嬉しそうな顔して小さく手を振ってきた。なんて可愛い。あぁほんと、好きだなぁ。










かわいいひと