「ねぇねぇ、知ってる?」

お昼休みの教室。言いたくて仕方がないという興奮を隠しもせず、クラスメートがガールズトークを開始した。やや派手な雰囲気の彼女は、最強男子バスケットボール部のマネージャーだ。聞かなきゃいいのに、なんとなく嫌な予感がして、涼しい顔をしながら聞き耳をたててしまった。

「深津ってさ、腰のところに小さなホクロがあるんだよね」

得意げに頬を緩めながら話す彼女と対照的に、私の顔がこわばる。
嫌な予感が的中した。
深津一成。こっそり付き合っている、私の恋人。
その彼の腰にはほくろがある。左側の腰骨のあたりだ。遠目でわかるような大きさではない。基本的には下着で隠れるはずのきわどい部分。でも、なぜ彼女がそれを?案の定、話し相手の女子が「やだー、なんかエローい」と嬉しそうに相槌を打っている。


「なんでそんなん知ってんの?見たってこと?」
「ふふ、なーいしょ」
「なによー、教えてよ」


きゃっきゃっとはしゃぎながら、彼女たちは連れ立って教室を出て行った。お財布を持っていたから、購買か、自販機か。
視界の端で彼女たちを見届け、ふう、と短く息を吐く。

”男バスのマネがいよいよ深津を狙い出したらしい”

三年生に進級してから、女子たちの間でまことしやかに囁かれていたあの噂は本当だったらしい。彼女の歴代の彼氏は、いつも運動部のエースばかりだったから、バスケ部だったら松本くんとか、後輩だけど沢北くんを狙うんじゃないかな、と思っていたけど、読み、というか希望的観測だったそれは外れてしまったようだ。深津くんかぁ。
実はそれとなくマネさんから好意を感じないのか深津くんに聞いてみたこともあったけど、きょとんとされてしまった。そもそもマネをそういう対象で見ていないし、マネが俺らをそういう目で見ていたら強制退部も視野に入れるピョン、と断言していたけど、あれは方便だったのだろうか。

昨日は日曜日で、1日大学生との練習試合と聞いていたけど、それだって確認する術はない。1日と言ったって、朝から練習していれば夕方には終わるだろうに、その後の足取りなんてもちろん知る由もないのだ。あの子と二人で何かあったとしたって、わからない。
キャプテンになってからの彼はやっぱり忙しそうだったし、近くで寄り添ってくれる人の方が彼にはふさわしいのかもしれないな。
窓の外にぼんやり視線を向けると、ざあっと強い風が木々を揺らすのが見えた。



いつもだったら見に行く練習も行かず、この時間だったら会えることがお互いわかっていた移動教室のルートも違う階段を使って、3日間深津くんを避けてしまった。
一度だけ深津くんが私の教室に来たけれど、それは例のマネージャーへの用事で、ますます私の気持ちを暗くした。深津くんが来たと声でわかっても、どんな顔を見せればいいのかわからず、私は頑なに教室の入り口に顔を向けなかった。
本音を言えば、もしかして深津くんが話しかけてくれないかなって期待をしたけど、嬉しそうに声をあげたマネージャーと連れ立って出て行って、その後姿を見せることはなかったのだった。


別れた方がいいのかもしれない。
本鈴ギリギリに鼻歌混じりで戻ってきたマネージャーを横目に、私はそんなことを考えていた。彼女がなぜホクロを知っているのかわからないけど、そういうことなのだとしたら、私がこれ以上深津くんの隣にいても、彼にとっては迷惑なだけだろうな。





「はぁ〜〜〜〜〜〜」


誰に相談できるでもなく、木曜日の放課後。
実習の課題を提出するのに、先生たちの会議が終わるのを待っていたら遅くなってしまった。
昇降口で靴を履き替えながら、また大きくため息をつく。


「深い悩みがありそうだピョン」
「ひぃいいっ!?!?」
「失礼な叫び声だピョン」
「ふ、深津くん!!!」


こんなところにいるはずのない人、だけどそんな語尾をつける人もほかにいるはずがない。


「な、なんで…?」
「土日が両方1日練習だったから、今日は調整で全体練は早めに終わったピョン」
「そ、そっか…」


そういえばたまにはそんなこともあったっけ。毎回その「調整」があるわけではないらしいし、土日の練習内容や試合結果次第で変わることもしょっちゅうなので、練習が早く終わる日、という認識をしていなかった。


「あの、さ、」
「なんだピョン」
「…私たち…わ、別れよ、っか、」


ずっとぐるぐる考えていたこと。
二人で話せるチャンスなんてないから、今しかない、と咄嗟に口をついた。
顔を背けながら、精一杯軽く聞こえるように。
なのに、深津くんは私のセリフを無視してびっくりするようなことを提案してきた。


の家、今月はお母さん木曜日が遅番って言ってたピョン」
「…え?」
「お邪魔するピョン」
「え!?」
「こんなとこで立ち話もなんだピョン」


いつもと変わらないように見えて、有無を言わさないオーラがすごい。
怒ってるわけではなさそうだけど、それもどうだかわからない。


「早くするピョン。自転車の鍵貸すピョン」
「…え、ちょ、っ、…!」


別れを切り出した日に、初めて二人並んで校門を抜けて、家路につくなんて皮肉なものだ。
誰もいない家の自室に腰を落ち着け、深津くんが切り出す。


「俺、何かしたかピョン」
「…ううん」
「明らかに今週、避けられてたピョン」
「……」
、」
「……」
「本当に別れたいと思ってるピョン?」
「……う、ん…」
「嘘ピョン」
「……っ」
「……」
「…う、嘘じゃ、ないもん…」
「…さん」
「…はい」
「別れるにしても、理由を教えてほしいピョン」


絶対に後には退きそうにない深津くんを前に、部屋にあげている時点で自分の負けだと悟る。


「男バスの、マネージャーの子がいいんじゃないの、?」
「は?」
「…ホクロ」
「ほくろ?」
「…深津くんの、腰のとこに、あるじゃない」


マネの子が知ってたの。それって、そういうことなんじゃないの?

到底顔を見ながらは言えなくて、完全に俯いたまま、小さな声でつぶやく。深津くんからは吐息ひとつ聞こえてこず、沈黙が二人の間を流れる。


「それ、いつ言ってたピョン」
「……今週の月曜日」
「………」
「………」
「日曜日、大学生と合同練習だったピョン」


それは、知ってる。


「施設で雨漏りがあって、更衣室棟がほとんど使えなかったピョン」
「…うん」
「女子は体育館脇の小部屋を更衣室にしたけど、男連中はそのまま体育館で着替えたピョン」
「…」
「正直、学校の練習でも体育館でシャツくらい着替えるのは毎回のことだから、特に意識はしてなかったピョン」
「…たまたま、見えたってこと?」
「まぁ尻まではいかないから、ちょっとパンツが下がっただけでも見えるピョン」


ほら、とズボンを履いたまま少し下着をずり下げると、深津くんのホクロがチラ見えした。
いつもそのホクロを見る時は全部脱いでる時で、下着を履いた時は見えてなかったと思っていたけど、思いの外腰の上の方で、確かに着替える時ならちょっとした拍子で見えるかもしれない。


「誤解、解けたかピョン」
「…ん、うん」
「…納得いってないピョン?」
「ううん、そういうわけじゃ、ない、」


でも、やっぱりマネの子が深津くんを好きだというのは確定だ。好きな相手だから、そうやって何か自分だけの秘密になりそうなことがないか探してるんだろうな。
過ごす時間の密度や、深津くんへの貢献度というか、理解度の高さは、彼女になるならマネの子の方がふさわしいんじゃないだろうか。


「どうせ意味わからんこと考えてるピョン」
「え、!?」


呆れたように深津くんが私を見下ろしている。


「俺の気持ち置き去りにしてるピョン」
「深津くんの…気持ち…」
「どうせあいつの方が俺に相応しいとか考えてたピョン」
「っ、!」
「俺はそんな大層な人間じゃないし、自分が付き合いたい女子くらい自分で決める権利があるピョン」


深津くんが、私の顔を覗き込む。


「俺は、が好きだピョン」
「…っ」
も、俺を好きでいてくれてるピョン?」
「……」
「正直に言うピョン」
「……う、ん…」
「だったら、その事実以外何も必要ないピョン」


「ピョン」の「ン」の口の形のまま顔が近づいてきて、口が塞がれる。いつもだったら、軽いキスを何回かして、「いいピョン?」とかって聞いてくれるのに、今日は、最初からキスが深い。なんというか、そういう気持ちのスイッチを、強引に押しにきてる、感じ、?


「…んっ、はぁっ、…あっ、なん、?」
「…したいピョン」
「ッ!」

いつもと表情は変わらないのに、深津くんの瞳の奥に情欲が見え隠れする。
そんな目で見られたら、一瞬で、スイッチ入っちゃうよ…


「…そんな顔して…」


深津くんが少しだけ眉尻をさげて、困ったような顔をしてうっすらと微笑む。


「俺のこと好きなくせに別れるとか言うなピョン」


唐突なキスのせいで、涙目で見上げた私の肩を優しくつかんで、深津くんが体重をそっと私に移動させてくる。抗うことなく後ろに倒れ込めば、さっきよりもっと激しいキスと、制服の裾から忍び込んだ無骨な指とは裏腹の優しい愛撫が始まったのだった。




「…はッ、、」
「あっ、…え、?…ぁ、んっ」
「気持ちいい、ピョン?」
「ぅ、ん…っ」


仲直りの何とやら、というやつなのか、いつもよりも自分の声が高いような気がする。
深津くんが動きを止めて、質問を投げかけてくる。いつもだったら恥ずかしくて答えられないのに、ふわふわした頭で素直に頷くと、深津くんが一瞬口を引き締めたかと思ったら、ぐっと深く挿入されて、たくましい腕が背中に回った。そのまま腰が奥を擦るように動いて、私はたまらず彼の首にしがみつく。


「…あっ、やぁあっ、そ、な…っ、あ、あぁ、!」
「俺も、気持ちいいピョン」
「んっ、ふぁっ、ふか、つく、…っ!…あっ、ぁうっ…!!」
、」
「へっ!?…きゃ、ぁ、あぁんっ」


私に覆い被さっていたはずの深津くんが、私の背中を抱き抱えたまま起き上がった。足が前に投げ出され、向かい合って座る形になる。当然、挿入はされたままで…


「…っ、はぁっ、んっ」
「辛くないピョン?」
「んっ、だい、じょぶ…っ」


抱きしめられながら優しくキスをされて、嬉しくて恥じらいもなく深津くんの腰に足をからめて、全身でしがみついてしまう。


「ひくひくしてるピョン」
「やっぁ、いじわる…っ」
、ちょっと胸反らすピョン」
「え、?」

深津くんの体が離れて、一瞬不安になるけど、腰に手が添えられたまま、そっと中で深津くんの向きが変わったのがわかった。

「、っ!?…ぁっ、やっ、んんっ!」
「…いいところ、あたるピョン」
「あっ、んぁあっ、ふか、つ、くん…っ!!」

深津くんがガンガン動いてるわけじゃない。私が、うごかされている、?
いつもベッドに沈み込むように上から押し込められているのに、今日はふわふわと空中へ突き上げられていて、明らかに中への当たり方が違う。どっちがいいとかじゃないけど、その、これ、やだ、気持ちいい。そして、斜め下の方から深津くんに見られると言うのがなんだか新鮮で、恥ずかしくて、いやいやとひたすらかぶりを振ってしまう。なのに、深津くんの指はもっと敏感なところにも触れてくる。


「あっ…!!ひあぁあっ…!?!」
「…っ、イきそう、ピョン?」
「あぁあっ、やぁっ、んっ、はぁ、ぁっ、あ、や〜〜〜〜っ!!」


一定のリズムで、中のいいところを刺激されて、外の秘芯を親指で優しくこすられたら、こんなのひとたまりもない。ビクビクと体をはねさせ、私はあっという間に達してしまう。
のけぞっていた体はいつのまにか抱きしめられ、ぎゅっと深津くんの首にしがみついた。荒い息の合間に、うなじや肩口にちゅ、ちゅ、と軽く吸い付くと、深津くんがピクリと僅かに体をよじる。


「エロいことするピョン」
「んっ…」

お返しとばかりに私の首筋にも深津くんのキスが降ってきて、イった余韻がまだ残っている私の反応に深津くんが嬉しそうな顔をする。

「もう少し頑張るピョン」
「へ、あっ…きゃっ!?」

私を抱きかかえながら、深津くんがベッドの端に座った。そのままお尻を支えながら…


「あっ、えっ、うそ、!?」
「ちゃんとつかまるピョン」
「うぁっ、ん…っ!」
「こうやってしがみつくピョン」


深津くんが立ち上がり、私の足が宙に浮く。いつのまにか膝の裏を彼の腕が通っていて、あまりの体勢に羞恥心で口がぱくぱくする。ゆさゆさと揺さぶられながら、絶対にないとわかっていても、落ちるかもしれないという本能的な恐怖で必死に深津くんの肩のあたりにしがみつく。


「あっ、やぁ、…んっ…、はぁ、…ぁ、あんっ!」
、怖い、ピョン?」

短く吐き出される息の合間の問いかけに、ふるふると首を横にふる。
そもそもイったばかりで、色々と敏感なのだ。いつもとは違う振動も、興奮のタネになっている。恥ずかしい。はしたない。


「よかった、ピョン」
「っ、ぁっ、あぁっ、!?」


ふっと深津くんが笑ったと思ったら、ゆったりとした揺さぶりから、腰の動きが激しいものに変わった。まって、恐ろしすぎる筋力だ。


「やっ、あっ、んあぁっ、ふかつ、くっ…も、ら、あっ…!!」
「落ちないように、しっかりするピョン」
「あっ、ひぃ…っ、やぁっ…っ!」


深津くんの腰の動きを必死に受け止めるため、無我夢中で深津くんにしがみついた。気づいた時には肩から背中のあたりに爪をたてていて、深津くんが小さな呻き声をあげたと思ったら、ゆっくりと動きが穏やかなものになっていく。
気づいた時にはベッドに体が沈んでいて、無意識の緊張が解けて私の目には涙が滲んでいた。


「大丈夫かピョン」
「う、ん…、へいき…ごめん、もしかして私、爪」
「気にしなくていいピョン」


ふわりと私の胸を深津くんの掌が包む。全体を揉みしだきながら、指で突起を挟んだり、つねったり、それと同時にまた腰が動き出す。


「あっ、ふか、つ、くっ…!?」
「悪いが、俺はまだイってないピョン」
「あっ、そ、ん…ぁあっ、んっ、」


胸を弄られ、ゆっくりとギリギリまで抜いたソレを、またゆっくりと奥まで戻す。さっきまでと比べたら全然激しくない動きなのに、散々達した私の体が、きゅうきゅうと深津くんを締め付けていて、内側が擦られるたびに体全体に刺激が広がっていく。それだけじゃなく、食まれた唇から入ってきた舌が歯列をゆっくりなぞって、私の舌と絡み合う。もはや私は口を開いているだけだったけど、深津くんが私の口腔内をじっくりと犯している。


「…っ、ん゛っ…はぁっ…」
「…
「ふか、つ、くん…?」


唇が離れ、深津くんの動きが止まる。汗で頬にはりついた髪を優しくはがし、深津くんが真っ直ぐに私を見据えている。もはや難しいことは何も考えられず、かっこいい、すき、深津くん、だいすき、みたいなふわふわした内容しか出てこない。


「…とろとろの顔してるピョン」
「…ん、だって、…ぁっ、も、…なん、で…っ!」


私が何か言おうとすると、いつもこうやって快感を与えてきて、喋れない私を少しだけ楽しそうに見ている。


「何か言おうとしたピョン」
「やっ、ぁん、…っ、とま、っ…ぁっ、ん゛っ!」
「気持ちよさそうだから続けるピョン」
「んあぁっ、ば、かぁ…、はっ、ぁっ、やぁ…っ!」


そのうち深津くんの息遣いが聞こえるようになってきて、腰の動きが早く、深くなる。


「あっ、んあぁっ、ふか、…っ、ぁ、ぁあんっ、」
、…ッ、!」
「…あっ、や゛っ、ふか、つ、く…っ…あ、も、っ、あ゛、あぁああっ、!」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ、!」


深津くんのが一際奥まで埋め込まれて、足がガクガクと震える。イくときはいつも、力一杯抱きしめられるのがたまらなく好きで、それで得られる幸福感は他の何にも代え難い。その瞬間だけは、深津くんの頭の中にはきっと私しかいないんだろうなって思える。
胸を大きく上下させ、目も満足に開かない私に対して、深津くんは大きく息を吐いただけで、特に呼吸は乱れていない。今日はあんなにハードな体勢もあったのに…
ん?あ、そう言えば…!!


、大丈夫かピョン」
「そうだ…ふかつ、くん、かた…」
「?」


何度か深呼吸をしてから何とか上体を起こした私を、珍しく驚いたような顔をして深津くんが見つめる。


「動いて大丈夫かピョン」
「深津くん、せなか、みせて」
「背中?」

腕を引っ張り体の向きを変えてもらうと、体育館競技の選手らしい白い肩と背中の境目あたりに、左右それぞれ3本ほどの引っ掻き傷ができている。
大きくはないが、やっぱりちょっと痛々しい。


「ごめん…ごめんね、痛いよね」
「全然平気だピョン」
「でも…」
「…むしろ嬉しいピョン」
「…え、?」


愛された証拠だピョン、といつも通りの顔をして深津くんがズボンを履く。
さらにTシャツを着て傷跡を隠すと、ポカリの缶を開けて渡してくれる。
自分では気づいていなかった喉の渇きが潤って、途端に倦怠感が体を襲ってきた。


、缶もらうピョン」
「…ありがと…でも、痛いでしょ?」
「こんなのちっとも痛くないピョン」
「ん、」


ゆっくりとベッドに体を倒した私の手から缶を受け取り、深津くんが軽いキスをくれる。


「あいつとは何もないって、信じてくれたピョン?」
「うん、」
「ならよかったピョン」
「深津くん」
「なんだピョン」
「ごめんね」
「、?」
「疑っちゃって」


体を起こせないまま、それでもまっすぐ顔を見つめて、つぶやく。
女子マネとの関係、少しでも疑ったりして、ごめん。
一瞬だけ目を見張り、すぐに深津くんが微かに微笑む。


「俺の腰のホクロを知ってるって女子に言われたら、不安になって当然ピョン。が謝ることないピョン」
「でも、信じてなかったってことだから」
「信じてないとかじゃなくて、他の女子が知ってたら嫌な気持ちになるし、どういうことかわからなくて不安になる、それだけのことピョン。それは俺を好きでいてくれてる証拠だと思ったピョン」


俺だって、と深津くんが続ける。


の体にあるホクロの場所、他の男が知ってたら嫉妬でどうなるかわからないピョン。それはを信じてるとか信じてないとかじゃなくて、単純にその男に対して怒りが生まれるピョン」


それは私を庇うために無理して言っているとかじゃなくて、本当に淡々と深津くんが思っていることをしゃべっている、と言う感じのトーンだったので、すとん、と私の胸に落ちて、じんわりと暖かく広がった。


「俺の方こそ、不安にさせて悪かったピョン」
「ううん、…深津くん」
「ん?」
「ありがとう、」

いまだに動けないでいる私のことをわかりきっているようで、覆い被さるように抱きしめられる。


「再来週からのテスト期間は、一緒に勉強するピョン」
「そうだね、うち来る?」
「学校の図書室行くピョン」
「へ」


腕の中で固まった私の頭を撫でながら、深津くんが淡々と続ける。


「もう、隠れるのはナシピョン。何も悪いことしてないピョン」
「で、でも…っ」
「わざわざ自分たちからは言わなくても、堂々と一緒に過ごせばいいピョン」
「…」
「…来年からは、どう足掻いても同じクラスとかは無理ピョン。だとしたら、今の時間を大切にしたいピョン」


た、たしかに…
私は元々就職のつもりで山王に入学してるから、バスケをしに進学する深津くんとはおそらく進路が分かれる。
自分たちの気持ち以上に大切にしなきゃいけない他人の目なんて、あるだろうか。もちろん、常識の範囲内での話だけど。


「月曜日はミーティングもないから、一緒に昼飯食べるピョン」
「い、いいの!?」
「…今まで我慢させて悪かったピョン」


首をふって、Tシャツ越しでもわかる分厚い胸板に、顔を寄せる。
ずっとこうしていたいけど、それはもちろん無理で、ていうか、深津くん門限あるし、そろそろ出ないと、だよね。
でも、ごめんね、もう少し、もう少しだけ。


「…走って帰ればまだまだ余裕ピョン」


私の気持ちを見透かして、さらに強く抱きしめてくれる深津くんの言葉に、今は素直に甘えさせてもらおう。


***

恋人に避けられているのでは、と気づいたのは火曜日の昼休みだった。
いつもだったら実習棟から教室に戻る際に、体育終わりで女子更衣室から出て廊下を歩いている彼女と会うはずなのに、影も形もない。
も暇なわけではないので、練習は毎日見に来れるわけではなかったが(そんなことしたら逆に目立つ)火曜日のこの時間に会わないのは、自身が意図的に避けている可能性が高い。
火曜日の練習も見に来なかったし、ダメ押しで水曜日にマネージャーを訪ねる口実での教室に出向くと、目線一つ寄越さなかったのが逆に不自然というものである。
先週までは至って普通だったわけなので、この土日に何かあったか。とはいえ、身に覚えがない。そもそも何かやらかすほどと顔を合わせていない。それが逆に原因なのか?いや、とすぐに打ち消す。そんなことは今更な事案で、それを不満に思うのであればとっくの昔に破局一択だろう。
となれば、本人に聞くしかあるまい。何としてでも木曜日の「調整」を実現させ、の元に向かう。
学校にいなければ自宅に突撃も辞さない構えだったが、下駄箱にローファーを見つけて安堵した。
しかし「別れよっか」とは、寝耳に水である。明らかに別れたくないという顔をしながらとんでもないことを告げる彼女の言葉を無視し、強引にの部屋に上がりこんだ。
別れを口にする理由を尋ねれば、思っても見ない角度からの理由で、唖然とする。
教室でそんなことがあったなんて。着替えの時に女子マネがいるかどうかなど、もはや気にもしていなかったが、向こうはそうではなかったらしい。調子にのって彼女ヅラとは、到底看過できない問題だ。しかし、その対処は後日にするとして、今は目の前の恋人だ。俺のことが好きでたまらないという顔をしながら、別れを切り出すなんて、辛かったに違いない。あの教室で、あのマネージャーの前で、堂々と話しかけてやればよかった。本当にかわいそうなことをした。
久しぶりなせいか、一悶着あったせいか、いつもより目を潤ませたを組み敷きながら、とある考えが浮かぶ。見られているのなら、見せてやればいいのでは?
キスマークは恥ずかしがってつけてはくれないだろうし、見えるところにわかっていてつけるのは、何となく品がない女のやることの気がする。
無意識につけさせ、かつ、彼女からのそれとわかるものは、やはり。
わけがわからなくなるほどに気持ちよくさせ、かつ不安定な体位なら爪をたててくれるだろうか。狙いはあたり、思わず笑みがこぼれる。
わずかな痛みはあったが、こんなにも俺の動きに翻弄される可愛いの前では、大した問題ではない。が快感に溺れてくれた何よりの証拠だ。



「マネージャー、汗だくだから着替えるピョン」
「え?うん、」

いつもだったらそんな注意喚起はしないが、あえて声をかけた。
さりげなくこちらに目をやる彼女を横目で確認し、勢いよくシャツを脱ぎ捨てる。

「、!?え、深津、それ」
「?どれピョン」
「肩のとこ、」
「あぁ…これ」

白々しく小芝居を挟み、ちょっと激しくしすぎたピョン、とつぶやくと、マネージャーの顔が強張った。

「…彼女、てこと?」
「それ以外ないピョン」
「い、いたんだ」
「そうピョン。だからお前、変なこと言い回るな」

自分でも驚くぐらいの冷たい声に、マネージャーが一瞬泣きそうに眉を歪める。
今日のところは、これくらいにしといてやるピョン。











甘い傷跡